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PEOPLE / INTERVIEW共鳴していく感情を、光に(後編)前田恭介

  • インタビュー
  • TEXT BY Sakura Sugawara  PHOTO BY Takashi Imai
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彼は、身の周りのこだわりが強い。たとえば自身のベースパフォーマンスを磨くため、ジャンルも楽器も違う音にたくさん触れる。ハンガーを30本しか持たず、新しい洋服を1着増やすときには、どの1着を手放すのか熟考する。過度のようにも見えるこだわりを貫くのは、自分の感性を頼りにしているためだ。だから、その基準を確かめるような作業――日々の走る感覚を蓄積したり、身体の違和感をキャッチしたり――を、無意識に尊重するのだろう。

前田にはもともと、サーフィンの趣味があった。気分の沈むことがあっても、海に行って大きな自然にぶちのめされると(彼はこう言った)、妙に落ち着く。波に飲まれて死にそうになる自分がとてもちっぽけで、ある意味、安心するのかもしれない。そして、ランにも同種のメンタリティを感じるという。走り続けて意識がぼんやりしてくると、悩んでいたことを手放して、また前に進める気がする。

「自分が大きな何かと闘っている感覚がいいのかな。サーフィンは海だけど、ランは地球みたいなものじゃないですか。走っていると、地球に飲まれていく。その没入感が気持ちいいんです」。

前田が人生でずっと楽しく関わっているのは、楽器とサーフィン。そしてこれからは、そこにランが増えると直感している。彼は、継続することにとても自覚的だ。いつだって楽しいことを続けたいし、続けられることこそ自らの人生に意義を持つ。自分に嘘をつかず、好きなものをきちんと選び取るから、豊かな時間を増やしていける。

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ランを通じて、いろんなひとに会ってみたい。全然違う人生を生きているひとの話が聞きたい。前田は、自身が主導するランニングコミュニティについてそう話す。

「すごく曖昧な表現だけど『あのひとたち面白そうだな』と思えるコミュニティが作りたい。間口が広くて、誰とでも目線を合わせて話せる関係。そんななかで、知らない世界にいるひとから新しい発想を取り込んで、いずれ音楽にアウトプットできれば、面白いですよね。そうやって自分の感じたことが広がって、受け取ってくれたひとがまた何かしらを感じて、広げて……そういうものがみんなの光になっていけたらすごくいい。俺がランをもっと自分に定着させていく過程でも、きっとはうまく機能してくれる気がする」。

一人ひとりがそれぞれの人生を走るとき、きっと、ランニングコミュニティが気の利いたサポートをするだろう。いままでより遠くに行けたり、笑い声が増えたりするかもしれない。走るきっかけは簡単につかめるけれど、とても大事で、もしすでに手にしているならきっと幸せだ。

※本取材は、2016年10月に行われました。

前田恭介

緻密なサウンドアプローチと、多角的な音楽表現のみならず、アートワークや映像でも注目を集めるロックバンド「androp」のベーシスト。2016年10月にはこれまでの世界観を大きく変えるアルバムとなる『blue』をリリース。『湘南国際マラソン』が初めてのフルマラソン挑戦となる。

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